レジュメ     向田邦子『阿修羅のごとく』

                                   2014.10.13 市川 元枝

 この作品は向田邦子がテレビドラマの脚本として執筆したものである。

【あらすじ】

 図書館の司書をしている三女の滝子が、姉妹四人全員に集まるように電話することから、この物語は始まる。何ごとだろうと集まると、父親に愛人と子供がいるらしいが、65歳の母親に知られずに穏便に解決するにはどうすればいいかと、相談するためであった。ところが四人の姉妹は、それぞれが男性についての悩みを抱えていて、そのことと平行してストーリーが展開していく。

 長女網子は、夫に先だたれ、家庭のある男性と不倫関係にあって、彼の妻に知られることを恐れている。

次女巻子は、夫と二人の子供がいて幸せそうであるが、夫に愛人がいるような気がして疑心暗鬼の日をおくっている。

 三女滝子は、独身であるが、父親の不倫を調べるために頼んだ興信所の男性と恋愛中。

 四女咲子は、チャンピオンをめざしているボクサーを助けながら、同棲中。

 そんなある日、匿名の投書が新聞の投書欄に載った。父親の不倫を心配した娘の書いたものと思われたが、結局、すでに事の次第を知っていた母親が送ったものとわかった。

 その後、母親は父親の浮気相手のアパートの前で倒れ、帰らぬ人となってしまった。

一人暮らしとなった父親を気遣いながら生きる四人の姉妹たち、その日常の生活を織り混ぜながら、ホームコメディ風の間模様が描かれている。その中に、阿修羅の部分をチラリ、チラリと覗かせているところに、著者の思い入れがある

 

【向田邦子 経歴】

1929年:   敏雄、母 せいの長女として出生。父親の仕事の関係で各地を移り

住んで育つ。目黒高等女学校、実践女子専門学校国文科卒業。

1950年: 財務文化社入社。社長秘書として勤務。

1952年:  雄鶏社に転職 映画ストーリー編集部に配属。映画雑誌編集者として働く。

1960年: 雄鶏社を退職後、脚本家、エッセイスト、小説家として活躍する。

1962年: ラジオドラマ「森繁の重役読本」脚本執筆。

1964年: テレビドラマ「七人の孫」脚本執筆。

1971年: テレビドラマ「時間ですよ」脚本執筆。

1974年: テレビドラマ「寺内貫太郎一家」脚本執筆。

1978年: 初のエッセイ集「父の詫び状」刊行。

1979年: テレビドラマ「阿修羅のごとく」脚本執筆。

1980年: 短編の連作「花の名前」「かわうそ」「犬小屋」で第83回直木賞受賞。

1981年: 取材旅行、中台湾で航空機墜落事故に遇い、51歳で亡くなる。

1983年: 向田邦子の功績を記念して、優秀脚本家に与えられる向田邦子賞が創設された。

 

【阿修羅について】
阿修羅像フィギュア
 仏教では、六道輪廻といって、死後人間が生前の善悪行為の結果に基づいて、六種類の世界、すなわち地獄道、餓鬼道、畜生道、人間道、天道、修羅道の世界に生まれ変わり、その生死を繰り返すという。

阿修羅は修羅道に住む神で、元来は仏道の守護神であったが、釈迦の守護神であった帝釈天に敵対して争い破れ、戦闘を好む鬼神、悪鬼として格下げされた。

また、インドの民間信仰上の神様で、外側では、仁、義、礼、智、信をかかげているが、一方では気が強くて人の悪口を言うとか、好みや、怒りや、争いのシンボルとも言われている。

道理に基づかないで、一方的に正義を主張することを「阿修羅の姿」という。また、血なまぐさい戦闘の場面などを「修羅場」と表現する。

彫刻では三面六臂を有し、三対の手のうち一対は合掌、二対は水晶の刀杖をもった姿をしていると言われている。

図の奈良興福寺所蔵の乾漆像は、天平時代の傑作の一つといわれている。

 

 

【感想】                            市川 元枝

 さまざまな立場をそれぞれの人間が背負っていて、それらを自然に使い分け、日常の何気ないところで、本質をつくような台詞や仕草に、ハっとしたり、心の動きを再確認したり、登場人物に自己投影して共感したり、反発してみたり、心に揺さぶりを感じながら読みました。

著者は女性ならではの視点から、女性の本質を阿修羅に例え、見事に掃いていると感心しました。

短い作家生活の中で、テレビドラマや、小説、エッセイなど、溢れんばかり多数の作品が残されていますが、著者の頭の中にはまだまだ書きたいものが沢山あったのではと推察され、読者の一人として急逝が残念に思えてなりません。



【感想】                   川地 元康

阿修羅のごとくを読んで、作者の女性と男性を見る目のたしかさ、男女の考え方の違いなど、同じ女性でも4人の姉妹の性格の違いが台詞や行動により鮮やかに描かれているのに感心しました。

長女の綱子さんは父の浮気を非難する一方、自分の不倫は容認します。矛盾を感じないのが女性らしです。見合いの時に、貞治さんを愛して必要としていることに気がつき、彼との愛を何よりも優先するところも、女性らしい生き方だと思いました。

次女の巻子さんは、もっとも一般的な主婦の代表ですね。家族と主人を愛し家庭を守り、心配は主人の浮気だけ。潔癖で正義感が強く不正には黙っていられなく、すぐ言ったり行動を起こしたり、何事も正しい方向でないと気が済まない。こんな所が女性らしく、好感が持てます。

三女の滝子さん、三人の中では一番真面目で正義感が強く、男性に甘えたり、しなを作ることが出来なく、婚期が遅れているのがわかっていても、やはり不器用な勝俣さんを受け入れるのに、あたふたするのが面白く、好感が持てました、彼女の正義感がいかんなく発揮されたのが、妹が恐喝されたときです。相手を呼び出し言ったセリフが見事でした。日ごろもっとも嫌っていた妹でも体を張って守る、家族の危機には恨みなど忘れてしまう、それに矛盾を感じない素晴らしい女性ですね。

末娘の咲子さん、彼女は危険な匂いのする男性にひかれる性質みたいですね、こういう女性もたくさんいますね。なぜでしょうか。動物は必ず強い雄に心惹かれます。人間の女性も男らしく強い男性に惹かれるのでしょうか。彼女はもう一つ彼の強さの裏のもろさに気付き、自分が強く必要とされているのを感じていたのだと思いました。こうした女性は苦労を背負い込むことが多く、彼女のこれからの長い人生を思うと、心配でお気の毒で、無事を祈らずにおれません。

興信所の勝俣さん、ちょっと不器用で人のいい方ですね。緊張のあまり、やはり初めてで緊張する彼女となかなかうまく結ばれなく、どたばたするところなどが愉快で好感が持てます。自分の初恋のころのほろ苦い体験を思い出しました。

鷹男さんは男、夫の代表みたいな人として描かれています。浮気は男にとってはラッキーなこと、家庭を壊さなければそれで元気や安らぎを得るのはそんなに悪いことではないと考えているみたい。これはモテル男性の大部分が抱いている考えですね。不正を早急に正したい女性に対し、出来たら時間に解決をゆだねたいと思うのが男の考えだと思います。咲子さんが危ない男と付き合っているのを別れさせたいと思う女性、それに対して自分の人生は自分で選ぶべきだと思うのが男性、鷹男さんはそんな男性を代表しているみたいです。鷹男さんは温厚で地位も、収入もあると思われ、中年の魅力にあふれていると思います。きっと土屋友子さんも、彼に好意を抱いていたと思います。彼も若き彼女に好意があったと思います。この辺の空気を読んで奥さんはやきもちを焼いたようですね。浮気が有ったかどうかは書いてありませんが、怪しいと思いました。なぜなら女性の勘は非常に鋭いですから。

恒太郎さん、子供たちが大きくなり、仕事も第一線から降り、心に張りを失っていたようです。そんな彼が若い女性に頼られれば、そこに生活の張りや安らぎを得るのは当然みたいですね。子供に慕われることで、彼のこの一家への愛情の深さがわかりますね。でも妻への申し訳のなさも同時にあったみたいで、必ず家に帰り、食事も家で取っていたようです。彼女に結婚のチャンスが訪れた時、もう一人身になるのが分かっていても、別れる決心をしたことに、とても彼女への思いやりを感じ、好感が持てました。

ふじさん、昔ながらの価値観で夫の浮気を黙って耐え、しっかり子供や家庭を守り、旦那を愛し、なにごとにも動じない立派な母親を演じ切りましたね。最後に、愛人の家の前にいることを見られたとき、彼女は後悔したのか、それとも子供たちや夫に自分の悲しみを理解してもらえたのが良かったと思ったのか、私は良かったと思っていると考えました。


【出席会員の感想】                 記録  伊藤 いち子

A:姉妹仲良く会話する環境がなかったので(友人同士はあるが)、姉妹が多いのはうらやましい。この作品の中の男性は古い時代の人なので現在では成立しにくい男女の世界がここにはある。こんなに穏やかに今は過ぎてはいかないだろうと思う。

B:昭和を感じさせるほのぼのとした作品。

C:この当時の母親というのは身の回りにあれこれ事件が起こっても、こんなものかと思って生きてきたのだろうか。

D:昭和の雰囲気をただよわす懐かしい感じのする作品。テレビで見た時の感想は男は勝手なことを言ってエラそうにしているが、女性に従わないと生きていけない、それが巧みに小説になっている。不倫を描いていても明るく、陰湿にならないのが良い。

E:テレビを先に見ているので、どうしてもその印象が先に立ってしまうのだが、登場人物の多くに名前がついていたり、小説としては見せ場が多すぎるのも元がシナリオであるなら妥当だろう。

F:章ごとのタイトル名で著者の教養の一端に触れるし、薪能や文楽が出てくるが、作品の流れとうまくあい、巧みに使われている。

G:題名がすごいが中を読むと文章がキリッとしていて、上手い。

H:元がシナリオなので心理描写が少ない気がしたし、登場人物個々の性格その他は印象に残らなかった。各人がそれぞれ阿修羅になる場面はドラマを意識しているのかと思った。

I:一人っ子の自分にとっては姉妹四人の喧嘩のような会話にはついていけない。

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