木曽ひかる著 『冬の光』  なごやか読書クラブ 2015年1月12日

                                  清水悦子

<あらすじ>

36歳の真介は自動車製造工場で働いていたが、不況で解雇され寮を出た。自己都合退職になっていたため、雇用保険がすぐ受け取れない。母はすでに亡くなり、父は別の女性と暮らしており実家に戻れない。ハローワークで求職してもみつからず、大都市のN市へ来るが状況は変わらない。コンチクショウの声が聞こえる。

公園で缶拾いをする老人に教えられて炊き出しへ。そこで勧誘にきた人に誘われて「しあわせハウス」に入所。生活保護を受給するが管理費等を徴収され、手元に幾らも残らない。二人部屋の井上から脅されて金をとられそうになり、ケースワーカーに相談するも埒があかない。

求職活動をしても慣れた製造業の仕事はみつからず困ってハウスに戻る途中、NPO法人ホームレス支援ネットの村石からハウスが貧困ビジネスの第2種無料低額宿泊所と教えられ、その援助で一般アパートに転宅した。

落ち着きを取り戻し、求職の参考に介護施設見学を考え、村石たちがおこなう生活相談会の手伝いや生活保護学習会に参加しようと決意する。

<私の職歴> 

高卒後公務員に。同時に夜学に通う。ほかの部署を経て生活保護の仕事を16年。福祉関係は合計23年。生活保護の仕事は多忙で厳しく辛いこともあったが人の生死に関わり、自分の持てる力で当事者を助けることもできるのでやりがいがあり、天職と思った。定年まで続けたかったが人事異動で別の部署に。

仕事量が多く職員増がないため病気になり、定年3年前に退職。定年まで働きたかったのに無念の退職をしたことで、満たされないものがあった。その後、嘱託でホームレス関係の仕事に勤務。二度と野宿に戻さないという思いで、居宅生活へ移行する支援をした。これらの仕事は充実感があり、仕事人生で思い残すことはない。 

<ホームレス・生活困窮者支援活動> 

ホームレス・生活困窮者支援活動を13年ほど行っている。08年12月、リーマンショックで失業者が増え、09年1月、区役所に相談者が押し寄せた。生活保護申請の支援活動を行い、ボランティアの会を立ち上げ、現在も行っている。水際作戦をする役所もまだあるが改善され、「路上から居宅へ」ができるようになりつつある。

ホームレスからアパートへ移行した人の中には、寂しさや金銭管理がうまくできず、また野宿に戻る人もいるため、月1回、当事者が集まり、食事作りや行事などをする支援をしている。

役所によっては、水際作戦と言われる生活保護をさせない所もある。桑名市では生活保護を切られ、餓死した人もいた。09年3月以降、岡崎、豊橋、知立、一宮、桑名、美濃加茂市等で、弁護士、司法書士たちと派遣村相談会等を開催して相談にのり、生活保護につないだ。

岡崎で私たちが相談にのり、その後、岡崎市で生活保護相談をした人が、貧困ビジネスに利用されて納得いかないと、裁判を起こした。この裁判を支援。14年8月に和解。

現在は、生活保護費切り下げに反対して裁判を起こした人たちを支援している。役所が休みになる年末年始には、越冬実行委員会をつくり、住居のない人が野宿をしなくてすむように名古屋市・愛知県と交渉をおこなったり、支援活動をしている。

 

<書いた動機>

貧困ビジネスと呼ばれる第2種無料低額宿泊所の実態を知るにつけ、許せないと思った。

真介は相談・支援活動の中で会った典型的な人物として造形。相談者の多くは両親が離婚していたり、施設育ちや貧しい家庭出身。自身も離婚していて、家族に頼ることができない人が多い。労働者派遣法改悪等で格差社会がますます広がりつつある。企業の利益のために非正規、派遣でうまく使われ、簡単に捨てられる現状を社会に訴えたいという気持ちになった。村石がチラシ配布をする場面は、実際に私が体験したことを書いた。 


<書き終えて>  

高校時代、文芸部で小説らしきものを書いていたが、社会人になり仕事が多忙で遠い世界に。人生も最終期に入り、最後は好きな文学に関わりたいと思い、13年4月に同人誌に加入して小説を書き始めた。

 今回の作品は、「貧困ビジネスを初めて知った」「実態がよく書かれていてわかりやすい」「破綻がなく作品の完成度は高い」など、評価の反面、「よくできたルポ、記録」「真介が淡々としすぎ」「人間が描かれていない」「図式的」「解説書」等の厳しい批評を受けたが、その通りと思う。最後の場面も力量不足で安易なものになってしまった。

書くことは難しい。若くもなく、残り少ない人生でどこまで書けるかわからないが、精進あるのみと思う。

 

<ペンネームの由来> 

上手でないので本名で書くのは恥ずかしい。愛知県といえば木曽川。大好きな「平家物語」の登場人物はそれぞれ魅力的だが、田舎者扱いされる木曽義仲には親しみと同時に哀れさを感じ、応援したくなる。高校時代から、リアルタイムでずっと大江健三郎を読んできた。障がいのある作曲家でもある息子さんの名が(ひかり)。それではおこがましいので、ひかる、とした。


出席者の感想      記録  清水 悦子

 *貧困ビジネスを初めて知った。今の時事問題や役所の水際作戦がわかった。

*「出だし」をどうするかで読んでみようと思うが、公園の情景描写などスムース。後半、村石と会ったあとは淡白で、枚数制約があるのか急いだ感じ。師走から年の明けのせっぱつまっている中でのことで同感できる。

*作者の人柄を感じる。路上生活の人を見ると、どのように生活しているか考えたことがあるが、具体的でよくわかった。食い物にする貧困ビジネスがわかった。

*こういう話は聞いたことがある。主人公が「コンチクショウ」の心境になるのがよくわかった。心の描写、状況描写が鮮明。支援者が現れ、いい方向へいき救われてほっとした。

*期間工は解雇されれば地獄。底辺で救われた。ボランティアの一員として成長していく。

*実際を文学として記録し、残すことは意義がある。貧困ビジネスのことはTVで観たが映像は消えるので文として残るのは大事。出だしの200円しかないとか、登場人物がいろいろ多種多様。公園、炊き出し等場面転換があり、どうなるのかというスリル感があった。転宅申請ができるとは知らなかった。転宅して自分の城ができて光が見えてきた。

*技術的なことはわからない。TVを観ないので派遣問題は新聞の字づらのみ。小説として読むとわかりやすい。派遣切等話題になっても年がたてば済んだ話になってしまう。社会問題がよくわかった。主人公は明日の目途がつく。最後は明るく終わってほしいのですっきりした。

*派遣問題はTVで観た。トヨタで派遣切が起きた時どうなるのかと心配した。ボランティア活動を長年続けていることに感動。以前、県の関連施設で働いていた時、ホームレスが来たことがある。女性もいた。その人達が炊き出しへ行き、その後、身だしなみが良くなることもあった。

*作者は主婦と思いこみ調査能力があると思っていたが、職歴を知り納得。人物描写が青田、井上など活写されている。「おとなしかった真介がいじめられて泣いて帰ると「母ちゃんは味方だよと、言った時の母の眼に似ていた」という文章は優れた表現。タイトルが良い。ペンネーム由来は俳句の「木曽殿が背中合わせの寒さかな」を思い出す・

*体験のすばらしさ、深さが文学の中にある。現在の小説が、幻想、空想的な作品が多い中で身辺、陽のあたらない生活に光を当てた。書き出し、締めが題名にふさわしい。井上が植木に水をやるのは、マイナス面ばかりでなくやさしい面もあるということを現した。

*外人が日本へ来て驚くことのひとつにホームレスが新聞、雑誌を読んでいること。国は後進国廻りをするがホームレスをなくすことに力を入れたらどうか。


感想  川地 元康

現代の貧困や労働問題、社会福祉の問題、貧困ビジネスの問題、役人の対応の問題などに光を当て、矛盾や問題を提示した鋭い小説ですね。

失業した彼の苦難は他人事じゃなく、私たちの子供、孫が直面しないとも限らない、深刻な内容でした。

この小説で、非正規社員の不安定さ、生活保護の仕組み、貧しい人をさらに貧しくするビジネスがあること、貧しい人を支えるボランティアの人たちがいることを知りました。

私が現役で働いたとき、たくさんの派遣社員の方と仕事をしましたが、ほとんどの方が社員と変わらなく一生懸命働いてくれました。しかし彼らの収入を聞いたとき、愕然としました。社員の収入の三分の一です。これで妻子を養っていけるのか、子供を大学へ入れられるのか? 心配したことを覚えています。

それでも工場があればいい方で、ほとんどの工場が二、三年で海外に行ってしまいました。円高と労働者派遣法で、労働者が何十年かけて築いた権利がほとんど失われてしまいました。残念です。

それだけでなく非正規と言うだけで、少し体を壊し休んだだけで、会社を首になりました。中には能力の落ちる人もいます。社員なら仕事を工夫して使っていきますが、派遣の方はすぐ首になりました。私は派遣の人たちを思うと、ただただ申し訳ない気持ちでいっぱいです。なんとか、いつ首になるかわからない彼らに、社員と同じ収入と、いつ職を失うかわからない彼らのため、せめて退職金を払うよう法律を作るべきだと思います。

小説にも書いてありますが、警察や役所などの役人の対応には問題があります。役人は窓口で、来た人を追い返すのが仕事としているみたいです。どこの役所へ行っても同じです。そう教育されているのでしょうか、困っている人の話は一応聞いてくれますが、出来ないの一点張りです。まるで面倒な仕事は一切しないと決めているみたいです。何度すごすご帰ったことか、残念です。

この小説がたくさんの人に読まれ、非正規の人たちの待遇改善の世論ができることを願っています。

貧困で困った人を助けるボランティアの人たちが活躍されているのには、頭が下がります。厳しい世の中ですが、優しい人々がいることに希望がありますね。

 

感想  岡本 恵子

 清水悦子さま、小説『冬の光』をお送りいただきありがとうございました。

真介をとおして、期間工として働く不安定さ、厳しさ、解雇されるとアリ地獄のように泥沼にはまり込んでいって這い上がれない現実。国の制度があっても、それを食い物にして金を儲ける人、それに頼らなければ命が危なくなってしまう現実。そのような状況の中でも、一つの光として底辺で生きる人達を救おうとしてボランティアで手を差しのべるNPOの人々。そんな社会の様子も手に取るように読み取れ、今の社会の貧富の差の大きさ、複雑さに心が痛む思いをしました。

 でも、主人公の青年も、NPOの人々とボランティアの一員として成長していく姿に、ほっとしました。

                  ホーム へ