木曽ひかる「月明りの公園で」報告者 清水 悦子 2015.11.9


 【註】 著者の「木曽ひかる」は淸水悦子さんのペンネームで、今回は著者自らに自作の解説と報告をしてもらいました。この作品で、木曽ひかるさんは、第12回民主文学新人賞を受賞されています。(庶務 安藤邦男 記)

あらすじ】

 43歳の白鳥大輔はエリートコースを歩んでいたが、リーマンショックの影響で肩たたきをされ、大手不動産会社を退職。その後離婚、就労支援モデル区のK福祉事務所で、生活保護受給者担当の嘱託就労支援員として働き始めた。厚労省は増加する生活保護受給者に対して就労支援を行い、生活保護費を抑制しようとしている。1年で成果を出すことを求められており、結果によっては打ち切りもある。女性の田端課長は高校の同級生だったが、大輔には記憶がない。不安定な現在の自分との差を感じる。

 最初に担当したのは就労意欲のない35歳の桜山と、刑務所暮らしの長かった62歳の菊井。桜山とハローワークへ通い、なんとか清掃パートの仕事に就職させる。菊井はスーパーのカート片付けに就職。電話で就労状況を確認する。菊井は居酒屋で飲酒しており、贅沢をしている、と叫びたくなる。桜山が失踪する。大輔は疲労で飲酒するが4千円も使ってしまう。今後の生活に不安を感じて公園へ行く。未来がなく涙が出る。

 菊井はスーパーでカップ麺1個を万引きする。菊井の担当CWである川上と警察留置場へ面会に行く。菊井は自分のような者に親切にしてくれたと涙を浮かべる。その後、拘置所に会いに行くが面会を断られる。もう充分と言っている気がする。金に余裕のないため、疲れた時は公園へ行き、しばし、休憩してリフレッシュする。公園で田端課長のこどもと思われるふたりの女児に会う。妹はダウン症で、出世した田端課長が苦労していることを知る。妻が引き取ったこどもへクリスマスプレゼントを送り、お礼のメールがくる。

桜山と菊井の失敗から、きめ細かな対応に心がけ、心を開く人も出て成果も出る。川上CWから来年度もきっと仕事があると言われる。2月、月明かりの公園で、温かな陽でなくとも月明りでいい、仕事に心をこめて努力しようと思う。


生活保護統計】

 全国(158月)1628,724世帯 2163,356人 高齢者世帯が全体の49,3

 名古屋市(159月)38,392世帯 49,290人 保護率2,17

書いた動機】

 福祉事務所保護係では多くの嘱託職員が働いている。若い職員の中には将来に希望がなく、辞める人もいる。不安定な身分の嘱託職員が、生活が苦しく、希望を失いがちな生活保護受給者の自立を支援している現実や矛盾を描き、世間に知らせたかった。

【文芸誌「民主文学」】

 民主文学会が毎月発行。創立50年。全国に百を超える支部がある。新人賞募集は95年に開始。過去、2年に一回、会の内外を問わず募集していたが、2014年から毎年、募集。今回は民主文学新人賞史上最年長受賞。過去には、映画にもなった「稲の旋律」を書いた旭爪あかねさんも「冷たい夏」で受賞。受賞者がない時もあり、現在までに10人が受賞。



【わたしの感想】 
川地 元康

生活保護受給者への就労支援の仕事があることを、初めて知りました。

毎年増大する生活保護費を少しでも減らし、合わせて就職出来ない人々に就職を支援し自立を手助けする、一石二丁のなかなか重要なお仕事ですね。

白石さん、自身がリストラに会い、離婚し、収入の大幅減、マイホームを失い、生活苦、孤独の中、生活能力の弱い方々の世話、励まし、常識が通じない人々にいら立ちながら、努力が報われず、信頼を裏切られて虚しさを感じながらも、努力を続け、見事成果を上げられたことに、報われて良かったと思いました。

同級生で課長の田端さん、順調に出世し勝組と思われますが、意外にも障害のあるお子さんがいたことがわかりました。彼女の優しさ思いやりが、彼女のお子さんを通じ獲得したように、感じました。どんなに成功した人にも、見えない重荷が有るものだと言う、人生の真理を作者は実感として知っておられるのだと、思いました。

この作品は、今の世の中の問題がいくつも提示されています。年々増大する生活保護費、生活能力の劣る人々、派遣労働、パート、アルバイトで働く人たちの不安定さ、低賃金、さらに一流企業で働いていても、いったん不況が襲えば、リストラが襲い、失業、大幅な収入減、ローンのため家を失う危険がついて回ること。

今競争が国際的になり、今勝ち組も、何時負け組になるかわからない、厳しい競争の中にあること。賃金も高くなれば、仕事は海外に行ってしまうことなど、誰も明確な社会の処方箋を書くことが難しい時代であると思います。

現役時代、沢山の派遣の人たちと仕事をしました。大部分の人は社員と同じように働いてくれました。でも能力の落ちる人もいます。体の弱い人もいます。その人を見て仕事を工夫して働いてもらいました。でも人によっては、弱い人々に罵声を浴びせたり、陰湿ないじめをしたりする人もいました。こうした人々が人間嫌いになったり、働く意欲を失ったりします。

桜山さんはそんないやがらせを受けた気がします。さぼったり、ズルをしたりする人には腹が立ちますが、いつも最低限彼らを人間として礼儀を持って接してきました。経済的に、能力的に雇えないのは仕方が有りませんが、せめて彼らを人間として、礼儀を持って扱って欲しいですね。彼らを人間不信、人間嫌い、働く意欲を失うようにはさせないでほしいと思います。

白石さんも、桜山、菊井さんから、期待を裏切られ腹を立てながらも、冷静さを失わず仕事をされましたね。きっとその苦労が彼を成長させ、負け組の人々を見る目を変えた気がします。

いまの若者の年金離れで、これからますます生活保護費が必要になると思います。難しい問題ですが、でも餓死だけはさせてはならない最後のよりどころです。何とか維持できるよう、願っています。

後は余談ですが、私の上司に非常に優秀な人がいました。一流の大学を出、綺麗で優しい奥さん、成績優秀のお子さん、裕福な実家、順調に出世をし、ラクビーで鍛えた体は頑健で丈夫でした。話をする機会が有ったので、「貴方には悩みが無いのじゃありませんか、」と聞いたことが有りました。答えは意外なことに、「私は十数年、痔に悩まされている」と言われ、驚いたことが有りました。この時、神はそれぞれの役割に応じ重荷を負うようにされるとの言葉を、実感として感じました。

それから派遣社員の方やパート、アルバイトの方たちの低賃金、しかも昇給無し、ボーナス無し、一生ぎりぎりの生活を送らざるをえない、そんな若い人を見ているとただ可哀そうでため息が出ます。彼らに幸が有るよう祈らずにおれません。将来はもう少し良い世の中になって欲しいと心から願っています。