中村文則 『土の中の子供』

        なごやか読書クラブ 2014・5・12     清水悦子

1 あらすじ

  私は27歳のタクシードライバー。幼い頃、遠い親戚の夫婦に引き取られ虐待を受け、土の中に埋められた。その記憶がトラウマになり、成人した今も暴力を受け、それに耐えることで次なる世界へ出ていけるかと考えている。高い場所から缶コーヒーを下へ落としたり、自分が落ちることを試みる。

「何か私を待っているものが確かに存在するように思えた。それが何であるかまだ、はっきりしない」「自分という存在が粉砕されていくように思え」(暴力を受けて)「こういうことはもうなしにしたい~残ったのは憂鬱と、やり場のない疲れだけだった」

同棲している白湯子は恋人から暴力を受けたことがあり、子どもが死産したことで不感症になっている。えくぼは、「まるでその部分だけは彼女の人生の影響を受けなかったかのよう」である。

仕事にも身が入らず、貯金もない。飲酒した白湯子が怪我をして入院。医療保険に加入していないため医療費の支払いに困り、入所していた児童養護施設に行き、施設長のヤマネさんに借金の保証人を依頼する。ヤマネさんは、金を貸そうと言ってくれた。話しているうちに暴力がよみ返り、倒れる。

その時、一緒に入所していたトクが自殺したことを知る。

  施設から実父が生きていたと聞き、「行動が一時的に、より酷くなっていたような気がした。」

「自分に根付いていた恐怖を克服するために、他人が観れば眉をひそめるような方法ではあったが恐怖をつくり出してそれを乗り越えようとした、私なりの抵抗」

 養護施設入所時、慰問会終了後のヤマネさんの態度で、殴らない大人もいることを知り、肯定感が生まれた。久しぶりに、ヤマネさんに会うことになり、実父が会いたいと言っていると聞く。しかし、土から生まれた僕には親がいない。関係ないと、拒否する。

もう少し生活が落ち着いたら白湯子と小さな旅行をすることになっている。その前に彼女の子供の墓参りをしようと思う。

2 感 想

虐待、暴力が与える影響について考えさせられる。

 行動の結果として、自らを危険にし、不利な状態に陥る。それしか行動できないのか。トラウマがひどい。

カフカの「城」を何度も読み返していたのは、報われないことの表れか。

ヤマネさんがきちんとした大人であることに救いがある。しかし、関わった施設の描き方が浅い。

白湯子は国保未加入であるが、国保に加入、または私の扶養家族(事実婚)になれば、高額療養費を使えば医療費負担は大きくない。借金する理由が不十分である。

白湯子はアルコール依存症になりかねないが、私と今後、共に歩む中で克服できると思われる。

白湯子との関係が、今後に希望を与える。白湯子の死んだ子供の墓参りをして旅行に行くことで、次への道を歩めると示唆している。

8歳のこどもの頃を成人になってから描くにしても、成人の思考のようであり、描き方に疑問が残る。

母子世帯のネグレクトのこどもを仕事で担当したことがあるが、遺棄する母を悪く言わず、かえって慕い、母を庇っていた。どのように成長したのか

3 虐待数

 2013年に警察が児童相談所へ通告した18歳未満のこどもは21,603

人。統計を始めた2004年から連続増加している。

 2012年度に全国の児童相談所が対応した件数は66,807件で、過去最高。

児童虐待は実母からの虐待が多い。

2012年に全国の児童相談所長が親権停止を申し立てた件数は、17自治体27件。

4 虐待を扱ったもの

 天童荒太 『永遠の仔』

 中脇初枝 『きみはいい子』

杉山春 『ルポ虐待』

映画 『誰も知らない』



 中村文則について

 1977年9月2日生

 本名:軸見文則

 愛知県東海市出身

 東海南高校卒 福島大行政社会学部応用社会科卒

 02年 銃(新潮新人賞)

 04年 遮光(野間文芸賞新人賞)

 05年 土の中の子供(芥川賞)

 10年 掏摸(大江健三郎賞)

 13年 去年の冬、きみと別れ(本屋大賞候補)

 ドストエフスキー、カフカを愛読。作品に影響している。

 カフカ(1883~1924 オーストリア=ハンガリー帝国プラハで出生。両親はユダヤ人。「変身」「審判」「城」(未完・寒村の城に雇われた測量士が、いつまでたっても城に入れない)


<自作を語る>

「虐待ということでクローズアップして語られることが多いが、暴力そのものを分析し、戦争も含めたことを意識して書きました。落下するイメージとそこから這い上がるイメージを交差させました。」

「悪意は人々の無関心の中で行われると思います。暴力自体を分析した小説だが、命や巨大なものに逆らう意志というものも意識しました。ものを落下させる行為と土から出る逆にあがるエネルギーが交差」

<児童相談所主催講演で>

今後もこうした虐待のことに関わっていきたい。

<掏摸>

私は掏摸。少年の頃からいつも塔を見た。母子家庭の少年が母に言われ万引きをしているのを見る。その母は売春したり、男と付き合っている。男が来ると少年は自宅を出される。私は母を買うが、少年に養護施設に入ることを教える。ある男の指示のもと、同じ掏摸の石川、立花と一緒に衆議院議員の老人宅へ押し入り、金と書類をまきあげる。石川は殺され、男の次の指示で、少年の命と引き換えに、3人の男たちから携帯電話や書類をとるように命令され、やり遂げるが、誰も入ってこない隙間のような狭い道で、拳銃で撃たれる。助けを求めるためにコインを投げる。

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